遺骨収集事業の信頼回復に向けて

去る八月五日、NHKで「戦没者は二度死ぬ~遺骨と戦争~」と題したドキュメンタリーが放映されました。番組では国の責務として政府が進めている戦没者遺骨収集事業が描かれていましたが、その現状における数々の問題点が指摘されていました。中でも大きな衝撃を与えたのは、平成二十六年八月にシベリア東部ザバイカル地方への政府派遣団(この派遣には当法人からは参加しておりません)が旧抑留地で収容した十六柱のご遺骨をDNA鑑定した結果、うち判別できた十四柱の遺骨は明らかに日本人のものではなく、残りについても日本人のものでないとの専門家の判定が下されていたという事実です。
 

この会議結果についてはドキュメンタリー放映に先立つNHKニュースでも報道されていましたが、報道によると、これは昨年八月の厚生労働省の会議での指摘だったとのことです。この会議結果が公表されることがなく、NHKが報道するまで重要な事実が伏せられていたということも問題であり、特別番組およびニュースによる報道は反響を呼ぶものでした。戦没者の遺骨収容に真摯に取り組んでいる我々にとっては、まさに看過できない問題であり、このようなことが二度と起こらないようにしなければなりません。シベリアでは過去においても、DNA検体を誤って焼骨してしまった不祥事もあって、我々としては遺骨収集事業への信頼が損なわれ、事業自体の実施意義が問われることを恐れます。

そして何より、国に帰るべきご遺骨の帰還が妨害され遅れが生じることを懸念いたします。再発を防止し、ご遺骨を家族のもとにお返しできるよう、遺骨の正確な人種鑑定がなされ、身元判別の可能性がある全てのご遺骨のDNA鑑定がなされることを当法人は求めて参ります。
 

NHKの特集番組ではまた、JYMAがこれまで十年近くテニアン島で活動を共にしている、元テニアン移住者の伊藤久夫さんがかつての集団自決の場所を探し当て、伊藤さんのご家族と行動を共にして亡くなられた方々であると考えられるご遺骨のDNA検体採取を派遣団長に求めたところ、これが容れられなかったことも触れられました。このテニアン派遣団には当法人からも参団し、伊藤さんと意見を同じくしていましたが、検体を採取すべき歯が出ていないという理由でDNA鑑定はなされず、ご遺骨は焼骨されました。現在の技術を持ってすれば歯ではなく四肢骨等の部位からでもDNA鑑定は可能であり、集団自決の場に居合わせた当事者である伊藤さんの証言があったにも関わらず焼かれてしまったことは残念でなりません。国の責務として行う遺骨収集においては、単に戦没者を祖国に戻すだけでなく、出来る限り帰還を待つご遺族のもとに還せるよう、もっと配慮がされるべきです。
 

もう一つ、NHKのドキュメンタリーの中で大きな衝撃を与えたのは、パプアニューギニアのブーゲンビル島において、遺骨を持参した現地住民に手間賃が払われることで、売買に近い認識を与えており、専門知識の無い現地博物館員が鑑定人として人種判定を一手に行っていた事実でした。これは、平成二十二年にかつてNHKが「〝疑惑の遺骨〟を追え」と題して報道した、フィリピンの遺骨収集の問題と極めて近い構図です。

フィリピンでは、報道されたご遺骨の杜撰な人種鑑定、鑑定結果の隠蔽などにより、九年間遺骨収集ができない状態が続き、先年やっと再開に向けた覚書が交わされたばかりのところ、他の地で同じ問題が指摘されたことは、事業再開に水を差し、その実施を危うくする恐れがあります。ご遺骨を売買の対象とするが如きは戦没者の尊厳を著しく損ねることであり、我々が常々強く戒めているところです。JYMAがご遺骨の売買など絶対に認めず許さない姿勢を貫いていることは、この機会にぜひご理解いただきたいと思います。
 

これを防ぐためには調査・収集団員が鑑定人と共に現場でご遺骨を確認する必要がありますが、ニューギニアにおいても、ミャンマー他の派遣地においても、発見されたご遺骨が日本兵のものか現地住民のものかの判別が出来ず、埋め戻される事例が近年相次いでおり、形質人類学の専門性を持った鑑定人の決定的な不足が遺骨収集事業の大きな足かせになっている現状を憂います。
 

我々が鑑定人として絶対の信頼を寄せていた、人類学者楢崎修一郎先生を三月に失った影響は大きく、今後の事業存続を危うくさせるところです。この損失を一日も早く埋めなければなりませんが、それには形質人類学を専攻した学者でなくとも、医学関係者であれば短期間の講習と実地訓練で人種鑑定ができるようになる筈です。どの派遣でも現場に同行できる鑑定人の速やかな養成と、DNA鑑定の徹底ならびに安定同位体検査技術の確立・採用をJYMAとしては政府に要請したいと考えます。
 

科学的鑑定なしには、外国政府が遺骨収集団を受け入れなくなる可能性は大いにあります。また、最近キリバス共和国タラワで米国DPAAが発見した日本兵らしきご遺骨を、韓国政府が被徴用者のものとして引渡を要求してきたことがあり、今後他の戦地でも同様の要求がされる可能性が十分あります。ですので、日本人のご遺骨が韓国に持っていかれないようにするためにはDNA鑑定で日本人のものと証明する必要がますます高まります。

DNA鑑定のためには現地での焼骨は取り止める必要があります。もちろん、それによってご遺骨への儀礼を失ってはならず、現地追悼式はじめ礼を尽くしつつ、未焼骨のご遺骨を内地にお迎えしなければなりません。

そうした科学的裏付けが無ければ、国が行う遺骨収集事業への信頼は得られないと考えます。ネット上においては、「遺骨収集従事者」全体が補助金を貰うために数値による成果主義に陥っているとの論調も見られますが、我々の活動が金銭目的ではないことは、この記事をお読みの皆様には良くご存知のところです。
 

これまでの我々が主張したことについて、厚労省を批判することで点稼ぎをしている、または遺骨収集関連団体同士で足の引っ張り合いを演じているように一部の方には映るかもしれません。

しかし、我々の真意は遺骨収集事業全体の信頼回復と可能な限り多くのご遺骨をご遺族のもとにお返しするために建設的に提言することにあり、他団体を非難するつもりはありません。私たちにとってはこの度の報道に関係するどの団体もかけがえのない大事なパートナーであり、たとえ一部の意見が異なることがあっても、今後ともこれまでどおり手を携えていく関係には変わりありません。

普段我々にご支援、ご協力ならびにご指導くださっている皆様には、どうか我々の意を汲んで、これら提言にご理解とご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
 

今回問題を投げかけた番組のタイトルの意味するところは、一度目は肉体が滅んだとき、そして二度目は誰も顧みなくなったとき、人は二度の死を強いられるということです。これは番組で大きな位置を占めた楢崎先生の常に語っておられた言葉であり、慰霊事業に携わる者がみな共有している思いです。ご遺骨が現地に放置され、顧みられずに土に帰すことがあれば、戦没者を二度死なせることになります。我々は戦没者が決して二度目の死を迎えることの無いよう、追悼の思いを胸に、国に命を捧げたみたまが永遠に生きられるお手伝いをしたいと願っております。

それは戦没者とご遺族に誠意を尽くすのみならず、故楢崎先生の御遺志を継ぎ、御恩に報いることにもなると信じております。
 
特定非営利活動法人 JYMA日本青年遺骨収集団

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